

WHAT
SWANOIRは、福岡市中央区のIoT機器の開発作業場で、Repair Cafe Fukuokaを運営しています。2024年にRepair Café Internationalに加盟した公認拠点で、日本にある7拠点のうちの一つです。開設以降、この場所には様々なものが持ち込まれます。生産が終わった掃除機、日本から撤退したメーカーのEバイク、外国製のシーリングファンのリモコン、拡大読書器、充電器など。福岡市内だけでなく東京から送られてくることもあり、車で片道10時間かけて持ち込まれた方もいます。Repair Cafeの文化をご存知の方が多い海外のご利用客も多く、月に30件以上の問合せがあります。
HOW
正規窓口が使えるなら退く
「Repair=修理」と言っても、何でも受けるわけではありません。メーカー保証が有効なもの、正規窓口がまだ使えるものは、まずはそちらをご利用頂きます。持ち込み前に保証との関係を確認してもらいます。これは、前提として、メーカーや正規窓口の修理費用は、保証と責任を含んだ妥当な価格だと考えているためです。受けるのは、その選択肢がすでに無いか、断られたモノ。「公式は高いから安く直したい」という相談は受け付けていません。
作業費を取らず、記録を公開してもらう
作業費は原則として無料です。交換部品や海外からの取り寄せは実費、Eバイクのように専用機器を使う作業だけ別料金で、料金が発生する場合は必ず事前に伝えます。RepairCafe Fukuokaをご利用の方に依頼していることは、修理の記録を画像付きでオンラインにアップしていただくことだけです。持ち込んだ方が経緯と結果を書き、こちらは返信で、何をやったか、どこが応急処置か、使う上での注意点などを付記しています。簡便的にGoogleマップのレビュー欄を利用しており、持ち込んだ側と直した側のやり取りが並んで見え、写真が上げられ、翻訳が即座に効いて、オランダの本部からそのまま読める形にしています。直った記録だけでなく、修理できなかった記録や預かりになった記録もそのまま並びます。
予約制で常時開ける
日本国内のリペアカフェは、地域のボランティアが不定期に集まる形や、カフェがイベントとして開く形が多く、日本の公認拠点も普及系イベントが中心と聞きます。一方で、Repair Cafe Fukuokaは、IoT機器の開発作業場をそのまま予約制の常設拠点にしています。
- 修理権(Right to Repair)とは何ですか?
- 修理権は、製品の持ち主が、メーカーに依存せず修理という選択肢を持ち続けられる権利です。EUでは2024年に修理権指令が採択され、2026年7月31日から加盟国で適用が始まりました。日本語では「メーカーに修理を義務づける法律」と紹介されることが多いですが、法の論理は持ち主の権利を先に定め、メーカーの義務はそれに対応する形で置かれています。フランスでは2021年から家電に修理のしやすさを示すリペアスコアが表示されています。Repair Cafe Fukuokaは、正規窓口が使えるモノはそちらを案内し、その選択肢が消えたモノだけを受けることで、この権利の受け皿として運営しています。
- 日本に修理権(Right to Repair)の法律はありますか?
- 日本には、持ち主の「修理する権利」を正面から定めた法律は今のところありません。家電の補修用部品の保有期間は、法律ではなく、行政の通達と業界の自主基準で運用されています。2026年からは改正資源有効利用促進法で、再生材の利用や修理しやすい設計、リペア事業者の基準が動き始めていますが、入口は資源循環であって、持ち主の権利ではありません。保証が切れた製品や、メーカーが撤退した製品には、公式の修理先がなくなるのが実情です。Repair Cafe Fukuokaは、Repair Café International公認の常設拠点として、他で断られたモノやメーカーが消えたモノの持ち込みを予約制で受けています。作業費は取らず、修理の記録をGoogleマップで公開してもらう形で運営しています。
WHY
正規優先の理由
EUで2024年に採択された修理権指令は、2026年7月31日から加盟国で適用が始まりました。日本語では「メーカーに修理を義務づける法律」として紹介されることがほとんどですが、これではむしろ「修理請求権」という翻訳の方が近い概念になってしまいます。弊社は、Right-to-Repairとは、もう少しシンプルな「持ち主が修理する権利」だと捉えており、メーカーの義務は先に置かれた権利にに対応する形で定められているものと理解しています。義務を機能させるために、まず誰が何を持っているかを確定させる。この方が、法理論として具体的で分かりやすい順序だと考え、Repair Cafe Fukuokaの運用もこの考え方に沿っています。Repair Cafe Fukuokaで公式の修理を優先するのは、この文脈であり、公式修理が可能であれば、適正な金額で修理権は保全されている状態だと考えているからです。受け皿が要るのは、その状態が崩れた後だけです。修理という権利からスタートし、それに呼応する義務という考え方であれば、実装は各所で具体的になります。オランダの家電メーカーは、特殊な部品を使わず、内部にアクセスしやすいコーヒーメーカーを出しています。汎用部品で組まれていれば、直す先はメーカーに限られません。また、ヨーロッパの一部の家電売り場には、修理のしやすさを示すリペアスコアが表示されていて、買う時点で、直しやすいかどうかを持ち主が選べます。2024年にハーグで参加したリペアカフェの15周年イベントで印象に残ったのは、こうした実物や実装が並び、「リペアカフェ」を文化や思想ありきで語らない姿勢でした。
常設と作業費なしの理由
修理権という言葉は斬新ですが、生活用品を修理するという行為は、取り立てて特別なことではありません。少し前まで、商店街には電気屋さん、時計屋さん、自転車屋さんがあって、扇風機が止まった、時計が動かない、そういう時に持っていく先が必ず一軒ありました。それほど高い修理費でもなく、時には世間話をしながら直してくれるようなお店です。誰も権利とは呼びませんでしたが、持ち主が直し続けられる状態は、そこで保たれていました。予約制で常時開けているのも、作業費を取らないのも、この考え方の反映です。こうしたお店が減ってきていることには、二つの理由があると考えています。一つは製品の側で、通信機能が載り、基板が精密になって、町の店の設備では届かないものも増えてきたこと。もう一つは取引の側で、修理の手間を支えていたのは製品を売ることで得ていた利益でしたが、直接商流で安く買う形を消費者が好むことにより、その支えがなくなったこと。本来、購入者がイニシャルコストを最優先するという行為は、メンテナンスは不要であるという意思表示でもあるので、修理ではなく買換えを求められているときに「不当である」と返答することには違和感もありますが、このあたりのバランス調整が必要になってきたのだと受け取っています。
本質と考えていること
すぐに直したいのは、多くの場合、毎日使うものです。扇風機、掃除機、ドライヤー、充電器、Eバイク。困るのは日用品が壊れたときで、現代の日用品の多くは電気製品です。Repair Café Internationalの年次報告でも、修理対象の上位は電気製品が占めています。リペアカフェが修理権を保全する場所という理解から、Repair Cafe Fukuokaでは電気製品を直すことを最重要視しています。一方で、リペアカフェは、イベントや啓蒙、修理の文化を学ぶ場、伝統技術や「もったいない」の精神と結びつけて語られることが多くあります。それ自体は良い活動ですが、組み立ての中心が活動の側にあって、持ち込まれた日用品がその日に直ることは、中心にないように見えることもあります。Repair Cafe Fukuokaは、直ることを中心に置いています。技術を本業から持ってきているのは、そのためです。修理権について啓蒙するか、修理権を保全する場所を先に作るか。Repair Cafe Fukuokaでは、後者を選んでいます。
