SWANOIR

2023.5.1

Written By MOM

補助金によるEV充電器設置|賛否の背景にある構造

EV充電器、特に急速充電器の多くは補助金を活用して設置されています。補助金の制度は、公金によるCO2削減という観点からは合理的で重要な仕組みです。しかし、設置した施設側にとっては、設置直後から「施設にとっての重し」になり、数年後に「停止」「撤去」が現実的な選択肢になるケースも少なくありません。また、制度自体に「EV急進派」以外からは批判が多いのも事実です。補助金の要件が設定されている理由と施設運営の実態が噛み合わないこと、そこから生じる設置場所と充電需要のミスマッチ。これらは誰の落ち度でもなく、構造的に起こりうる問題です。

補助金で設置されたEV充電器の問題のイメージ

補助金要件と施設運営のズレ

補助金で設置された充電器には、多くの場合、「24時間公開」「EV専用駐車場の確保」「施設利用者以外にも開放」といった要件が伴います。補助金という性質上、公共性の観点からはある意味では当然の条件です。しかし、充電器を設置する施設にとっては、これらの要件が運営実態と噛み合わないことが多いのも事実です。
24時間公開
営業時間外にも来訪者が発生します。照明や防犯カメラの維持、深夜のトラブル対応など、施設側の負担は小さくありません。
EV専用駐車場の確保
限られた駐車スペースの一部を常時専有することを意味します。充電利用がなくても他の車両は停められず、満車の時間帯が発生し得るような駐車場や、繁忙期には特に問題になります。
施設利用者以外にも開放
施設の顧客ではない来訪者が増え、本来の顧客サービスへの影響も懸念されます。
そもそも、施設が充電器を設置する目的は、施設利用の促進や来客の利便性向上であることが多いはずです。しかし、補助金の要件を満たすことで、その本来の目的から大きくかけ離れてしまう。こうした負担が積み重なり、運用している会社の一部の方々は「できれば使わないで欲しい」と思いながら運用するケースも珍しくありません。結果として、利用促進にも積極的になれず、稼働率が上がらないまま維持費だけがかかり続ける。数年後に「撤去」という判断に至るのは、ある意味で当然の帰結です。
補助金充電器の運用イメージ

補助金の要件と施設運営の実態にはズレが生じやすい。(Photo by SWANOIR)

採択されやすい場所と充電需要のミスマッチ

補助金には申請されやすい場所の傾向があります。都市部の好立地は競争が激しく、上記のような要件を満たす車室の確保自体が難しいため、地方や郊外の方が申請されやすい。しかし、補助金の要件を満たしやすい場所は、往々にして充電需要が少ない場所でもあります。

充電器の設置を検討する施設にとって、補助金は大きなメリットです。急速充電器の導入には数百万円から数千万円の費用がかかるため、補助金なしでは導入に踏み切れないケースも多い。結果として、「充電需要があるから設置する」ではなく、「補助金が取れるから設置する」という判断になりやすい構造があります。

この構造的なミスマッチにより、使われない充電器が生まれやすい状況になっています。設置数は増えても、稼働率が低い充電器が各地に点在する。これが現在の充電インフラの一側面であり、一概に「充電器の数が少ない」とも言えない理由でもあります。

補助金を利用したEV充電器について、「ばら撒き」や「稼働率の報告」を求める批判をインターネットで見かけることも多くなりましたが、この批判は制度自体からやむを得ず生まれている側面もあり、根が深い問題です。

「速い充電器に入れ替える」という解決策への疑問

こうした状況に対して、「充電器が遅いから使われない」「もっと速い充電器に入れ替えるべき」という議論があります。高速道路のサービスエリアであれば、その通りかもしれません。

しかし、一定の滞在時間がある施設では話が異なります。2〜3時間の滞在が見込める場所であれば、30kW程度の充電器でも十分に機能する余地があります。稼働率が低い原因は「速度」ではなく、前述のような構造的な問題であることが多いのです。

急速充電器への入替には大きな設備投資が必要です。構造的な問題を解決しないまま高速化しても、根本的な解決にはなりません。

第三の選択肢:既存設備の運用改善

「撤去」か「新しい高速充電器への入替」か。この二択で悩む前に、検討できる選択肢があります。既存設備の運用改善です。

課金システムの見直しにより、施設の特性に合った運用に変えられる場合があります。設備投資を抑えながら、「使われない充電器」を「使われる充電器」に変える。補助金の要件から離れることで、施設本来の目的に沿った運用が可能になります。

既存充電器の運用改善イメージ

撤去・入替以外に、運用改善という選択肢がある。(Photo by SWANOIR)

既存設備を活かすという考え方

技術革新を活かして新しいものを設置することも大切です。しかし、既存設備を活かして、きちんと使われる形にする。これもEV充電器の本来のあり方のひとつだと考えています。

この記事は2023年時点の補助金制度と充電インフラの状況に基づいています。補助金の要件や制度は変更される可能性がありますので、最新情報は各自治体や関連機関にご確認ください。