なぜEV充電で「新規引込」が必要なのか
EV充電器は一般的な家電製品とは大きく異なる電力需要を持っています。6kWの充電器の場合、継続的に大きな電力を使用することになります。このような家庭では特殊な電力需要に対して、既存の引込では容量不足が生じることがあり、電力会社では「EVに関する新規引込」という特別な対応を用意しています(地域によって呼び名やルールが若干違います)。
この新規引込は、既存の住宅配線とは完全に独立した電力供給ルートを確保する方法です。EV充電専用の配線を電柱から直接引き込むため、住宅内の電気使用とEV充電が相互に影響することがありません。
引込に関する基本ルール
電力供給における原則として、一つの建物には一つのメーターが基本です。しかし、特定の条件下では例外的に複数のメーターを設置することが認められています。典型的な例は、2世帯住宅や1階が店舗で2階が住宅といった用途の異なる場合です。
この例外適用には明確な条件があります。回路が完全に分離されていること、契約名義が明確に区別されていること、用途が明確に異なることなどが求められます。EV充電の場合、「住宅用」と「EV充電用」という用途の違いにより、この例外ルールの適用が可能になっています。
重要な点は、最初の引込工事は通常無料ですが、名義に対して2つ目以降の引込には「負担金」と呼ばれる費用が発生することです。これがEV充電工事で追加費用が発生する理由です。

一つの建物に複数のメーターを設置する場合、2つ目以降は負担金が発生します。(Photo by FREEPIK)
EV特例の仕組みと条件
EV充電のための新規引込は、各エリアの送配電事業者によって若干異なるものの、全国的に制度化されています。この制度により、EV充電専用の電力供給契約を結ぶことができ、住宅とは独立した電力管理が可能になります。
この制度の最大のメリットは、住宅の電気容量を気にせずにEV充電環境を整備できることです。既存住宅の電気容量が30Aや40Aと限られている場合でも、新規引込により6kWや10kWのEV充電が可能になります。
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EV充電工事と電気容量の関係引込費用が事前に分からない理由
新規引込で最も困惑するのが、「費用がいくらかかるのか事前に分からない」という点です。これには電力インフラの特殊な事情があります。引込工事は個別の住宅だけでなく、周辺地域の電力供給にも影響するため、詳細な現地調査と設計が必要になります。
引込費用は「負担金」という名称で電力会社から直接請求されます。この負担金は工事業者を通さず、電力会社から直接請求されることが一般的です。そのため、工事業者は概算すら提示できない場合が多くあります。また、電力会社の調査や算定は正式な申請後に行われるため、申請前に正確な費用を知ることは困難です。
一般的な感覚では「見積もりをもらってから検討したい」と考えるのが自然ですが、電力インフラでは「必要と判断されれば実施する」という公共性の高いサービスとして位置づけられ、また、上述のように費用負担があることは稀です。そのため、費用面での事前検討よりも、必要性の判断が優先される仕組みになっています。
新規引込のメリット:充電速度と住宅保護
新規引込による充電器設置で、最もメリットが大きいのは、安定した充電速度の確保です。住宅の電気使用と完全に分離されているため、エアコンや電子レンジなどの大型家電の使用に影響されることなく、一定の出力でEV充電を継続できます。
また、住宅への影響を最小限に抑えることができます。既存の住宅配線を使用しないため、住宅内部での配線工事や分電盤の改造が不要になります。特に、外壁や基礎への穴あけ工事を避けることができるため、住宅の気密性や耐震性への影響を心配する必要がありません。
さらに、将来的な拡張性も確保されます。EV台数の増加や充電器の高出力化に対応する際も、住宅側の電気容量を考慮する必要がなく、柔軟な対応が可能になります。

新規引込により住宅の電気系統に影響されない安定した充電が可能になります。(Photo by SWANOIR)
地域・環境による費用変動の要因
新規引込の費用は地域や周辺環境によって大きく変動します。最も費用に影響するのが、電柱から住宅までの距離と経路です。電柱が近い場合は比較的低コストですが、遠い場合や迂回が必要な場合は高額になります。
また、距離だけでなく、周辺の電力需要密度も費用に影響します。住宅密集地では電力設備が混雑しており、新規引込のために既存設備の増強が必要になる場合があります。一方で、需要密度の低い地域では、比較的スムーズに引込工事が可能な場合が多くあります。
特に注意が必要なのが地中埋設エリアです。架空線による引込と比較して、地中埋設では工事の複雑さと費用が大幅に増加します。また、既存の地中設備との干渉や、道路使用許可などの手続きも必要になるため、工期も長くなる傾向があります。
慣れた業者選びの重要性
新規引込を伴うEV充電工事では、経験豊富な業者選びが特に重要になります。電力会社との調整、申請手続き、工期管理など、通常の電気工事とは異なる専門知識が必要だからです。
経験のある業者は、地域の電力会社の特性や手続きの流れを熟知しており、スムーズな工事進行が期待できます。また、引込費用の概算範囲や工期の目安についても、過去の実績に基づいたアドバイスを提供できます。
さらに、新規引込では電力会社の工事と電気工事業者の工事が連携して進められるため、全体の工程管理能力も重要です。適切な業者選択により、工期の遅延や追加費用の発生を最小限に抑えることができます。