家庭用電源の3つのタイプ:全く異なる仕組み
- 100V(電灯)
- 一般的なコンセントで使用される電圧で、照明や小型家電に使用されています。
- S200V(単相200V:電灯)
- 一般住宅で標準的に供給されている電圧です。エアコンやIHクッキングヒーター、洗濯機などで使用されています。どの住宅にも必ず供給されているため、「200Vがある」という表現は実は何も特別なことを言っていません。
- T200V(三相200Vまたは動力)
- 業務用設備や大型機器で使用される電圧です。一般住宅では、エレベーターや大型の業務用エアコンが設置されている場合にのみ供給されています。
「200Vがある」という言葉の意味
一般的にS200Vはどの住宅にも標準で供給されているため、「うちは200Vがあります」という発言は、実は何も特別な情報を提供していません。この発言により、聞いた側が全く違う状況を想像してしまう場合があります。例えば、業務用の大型設備があるような住宅を想像し、話の方向性が変わってしまうことがあります。
業者側がこの発言を聞いた場合、お客様が電気の基本を理解していない可能性があると判断し、説明を簡略化したり、場合によっては不適切な提案をされるリスクも生じます。「200Vがあるから大丈夫」ではなく、具体的なご要望を整理してから相談することで、スムースな依頼が可能になります。

一般的な家屋には原則としてすべて100VとS200Vは供給されています。
出力はVとAの組み合わせで決まる
EV充電器の出力は「V(電圧)×A(電流)=kW(電力)」で決定されますので、電圧だけでは出力は決まりません。例えば、200V×15A=3kW、200V×30A=6kWとなり、同じ200Vでも電流によって大きく出力が変わります。
施工上の重要項目である、「電線の太さ」は主にA(電流)で決定されます。出力を上げるためには電流を増やす必要があり、そのためには太い電線が必要になります。また、配線の長さやブレーカーサイズも影響するので、配線の太さの決定要因は一つではありません。
既存のコンセントを充電器に交換するだけでは配線自体は変わらないため、出力の向上は期待できません。むしろ、細い電線であるにも関わらず、自己判断で充電器の出力を上げて大きな電流を流そうとすると、配線が過熱し火災の原因となる危険性があります。
配線変更は家の構造に関わるため慎重さが求められる
EV充電の出力を上げるためには、配線の変更や増設が必要になります。しかし、配線は住宅建築時に決定されており、後から変更することは技術的にも費用的にも困難です。
配線の増設工事は、多くの場合、電源からEV充電器設置場所まで新たに配線を引く作業が必要になります。この工事では壁や床の一部を開口したり、外壁に配線を這わせたりする必要があり、住宅への影響を慎重に検討する必要があります。適切な計画なしに工事を進めると、住宅の構造に悪影響を与える可能性もあります。

DIYの延長線で充電器工事設置を考えることはおすすめしません。
「急速充電器を家に」という誤解
時々、「急速充電器を自宅に設置したい」という相談を受けることがありますが、これは現実的ではありません。急速充電器は数十kWから数百kWの大電力を必要とし、一般住宅の電力契約や配線設備では対応できません。
急速充電器の設置には、電力会社との高圧契約や特別な設備が必要となり、設備費用だけで数百万円から数千万円の投資が必要になります。一般住宅では、AC充電器による普通充電が現実的な選択肢です。
なお、マンションの共用部に急速充電器が設置されているケースが稀にありますが、これは相当な電力設備投資と電力契約の変更を伴う大規模な工事です。マンション全体の電力容量や共用部の電気設備を大幅に変更する必要があり、管理組合レベルでの重要な意思決定と大きな費用負担を伴っています。
適切な方法は必ずあります
EV充電環境の整備には、実現可能で経済的な方法があります。本コラム含め、インターネットで得た断片的な知識だけで業者と対峙するのではなく、専門家と適切にコミュニケーションを取ることが、適切な充電設備の設置の鍵になります。
お客様が強固な先入観を持って相談された場合、業者側も「ご希望なのであれば」という心理が働き、お客様の間違った要求にそのまま応じてしまう可能性があります。結果として、最適ではない工事が行われ、後で問題が発生することもあります。
適切なEV充電環境を実現するためには、まず正確な要望の設定(要件定義)が必要です。しかし、一般の方が電気工事の詳細な要件を独自に定義することは困難ですし、その必要もありません。
専門業者との相談では、「200Vがある」といった曖昧な情報ではなく、「どれくらいの出力が必要か」「どこに設置したいか」「予算はどの程度か」「工事による住宅への影響をどこまで許容できるか」といった具体的な要望を整理して伝えることが重要です。