SWANOIR

2023.4.25

Written By SHO

自宅EV充電工事:有利な住宅・不利な住宅

EV充電器の自宅設置工事には、住宅タイプによる有利・不利があります。同じ出力の充電器を設置する場合でも、住宅の条件次第で工事内容と費用が大きく異なります。様々な事情であまり公になっていませんが、自宅のEV充電工事の有利な条件と不利な条件とその事情を本コラムでは整理します。

自宅EV充電工事のイメージ

工事が有利な住宅の特徴

以下のような条件が揃っている住宅では、工事が比較的容易で費用も抑えられます。
分電盤が駐車場側にある
配線ルートがシンプルになります。
通気口や既存の貫通部がある
配線を外部に出すための経路がすでに確保されている場合、追加の穴あけ工事が不要です。
駐車場が家の壁に隣接している
分電盤から設置場所までの配線距離が短くなります。
これらすべての条件を満たす住宅は、実際にはそれほど多くありません。
有利な住宅条件のイメージ

分電盤と駐車場が近い住宅は配線ルートがシンプルになります。(Photo by Ibrahim Rifath on Unsplash)

工事が不利な住宅の特徴

反対に、以下のような条件では、工事の難易度と費用が上がります。
分電盤と駐車場が対角線上にある
配線距離が長くなり、電圧降下対策や配線材料のグレードアップが必要になります。
高気密・高断熱住宅など、貫通が困難
現代の住宅は気密性を重視した設計が多く、安易に穴を開けることは住宅性能の低下につながります。そもそも、家に穴を開けることは簡単に判断すべきことではありません。また、床暖房など、床下のスペースがなかったり、屋外までのルートを確保しづらい作りの場合も施工は難しくなります。
配線ルートに玄関がある
玄関前を配線が横切る場合、安全面でも美観面でも慎重な施工計画が必要で、迂回などによりコストがかさむ傾向があります。

なぜ有利・不利が生じるのか

この差は、ご自宅の設計上の問題ではありません。そもそもEVレベルの大電力を屋外に供給することを想定して設計された住宅はほとんどありません。もし、電気容量に過度に余裕がある住宅であれば、基本料金が無駄に高くなることになりますし、配線や契約容量に大きな余裕があるなら、それは設計として過剰だったということであり、住人の方が極端に減るなどの事情がなければ、EV充電に耐えるほどの電力や設備に大きな余裕があるケースはほとんどありません。

住宅購入時に「EV充電対応」と説明を受けた方もいらっしゃいますが、その多くは初期型リーフ(25kWh程度)を想定した設計が多いのが実情です。現在主流の60kWh〜100kWhクラスのバッテリー搭載車に対応するには、追加工事が必要になるケースが多くあります。

一方で、築年数の古い住宅の場合、非常に工事がしやすい場合があります。気密性への配慮が比較的緩やかで、配線ルートの選択肢が多いためです。ただし、ブレーカー容量の確認やセキュリティ面での配慮など、別の観点での注意が必要になります。

不利な住宅条件のイメージ

現代の住宅はEVレベルの大電力供給を想定していない設計がほとんど。(Photo by MarkusSpisk on Unsplash)

「聞いていた話と違う」が起こる理由

EV充電工事の見積もりで「車両を購入したときに聞いた話と違う」と感じる方がいらっしゃいます。これは関係者の誰かが不誠実なわけではなく、それぞれの立場による微妙な構造的なズレが原因です。

EV販売者(メーカー・ディーラー)の立場では、充電工事が高額になる可能性を強調する理由はなく、また実際に安価で済む事例もあるため、一般的な説明にとどまらざるを得ません。

一方で、お客様の心理として、「メーカーが言っていたのだから正しいはず」という認識を持つ方が多くいらっしゃいます。この印象自体を否定するつもりもありませんが、車両販売と住宅への施工は全く異なる専門領域ですので、そのように言われてしまうと、施工側としては困ってしまうシーンがあることも事実です。

ただ、現実として、充電工事の費用は住宅の条件で大きく変わるため、車両販売の時点で正確な金額を伝えることは誰にもできません。施工業者が現場調査を経て見積もりを出すと、販売時の説明との差が生じることがあります。

これは「車両販売」と「住宅への施工」という異なる専門領域が関わるために生じる構造的な問題であり、誰の落ち度でもありません。

施工業者としての正直な立場

施工業者の立場としては、メーカーやディーラーの方の顔を潰すわけにもいきません。しかし、「販売店では安いと聞いた」と言われても、不利な住宅条件の場合、その金額で対応することはできません。

無理に安く抑えようとすれば、低出力の設備や将来の拡張を考慮しない工事になり、結果的にお客様が損をします。かといって、正直に見積もりを出せば「聞いていた話と違う」と言われてしまう。

私たちにできることは、なぜこの金額になるのかを丁寧に説明し、住宅条件による差があることをご理解いただくことです。この記事も、その説明の一助になればと考えています。

1回目で適切に施工を実施することの重要性

EV購入時に支給される補助金は、車両価格だけでなく、充電環境の整備も含めたEVライフ全体の初期費用を支援する意図で設計されています。しかし、多くの方が補助金全額を車両代と認識してしまい、充電工事費用が「想定外の追加出費」に見えてしまうケースがあります。

追加出費だから抑えたい、という心理が働き、低出力の設備や将来の拡張を考慮しない工事を選択してしまう。結果、次の車両に買い替えたときに再工事が必要になり、また費用がかかる。この悪循環に陥るケースは少なくありません。

EV充電設備はカーポートや外構工事と同じ性質を持っています。最初に適切な設計と施工を行えば、その後は基本的に追加費用は発生しません。1回目の工事を「いかに安くするか」ではなく、「2回目の工事をしないで済むようにするか」という視点で考えることが重要です。

また、充電出力の選定も重要な要素です。現在の大容量バッテリー搭載EVでは、3kWの充電器でフル充電に20時間以上かかります。「毎日長距離を走らないから問題ない」という意見もありますが、この論理を突き詰めると「一人で乗ることが多いから後部座席は不要」と言っているのと変わりません。車は「いざという時」の余裕を「過剰ではない範囲で」含めることが重要だと考えています。

エルメス・アムステルダム店前のEV

とにかく最小で良いということであれば、理想のEVの形はこの形状になってしまう。(Photo by SWANOIR)

最初から将来を見据えた設備を

自宅充電工事には住宅タイプによる有利・不利があり、これは誰の落ち度でもありません。ご自宅が不利な条件であっても、適切な設計と施工で対応することは可能です。補助金の一部を充電設備に充てる前提で予算を組み、最初から将来を見据えた設備を導入する。これが「何度もお金がかかる」悪循環を避け、快適なEVライフを実現する最も確実な方法です。

この記事は2023年4月時点の状況に基づいています。住宅の構造や電気設備は個々に異なりますので、具体的な工事内容については専門業者にご相談ください。