SWANOIR

2022.4.15

Written By MOM

EV充電器の「罰金」システム考察

公共の充電インフラの利用者が増加するとともに、充電完了後も車両を長時間放置する問題が顕在化しており、多くの充電器運営会社が様々な対策を講じています。この仕組みがなぜ必要なのか、そしてEVユーザーが知っておくべき注意点について整理します。

EV充電待ちの人

EV充電の課金システムの基本構造

多くのEV充電器では、「通電時間」または「充電量」に基づいて料金が決定されます。この課金方式では、実際に電力が供給されている時間や充電された電力量のみが料金の対象となり、充電完了後の駐車時間については課金されないのが一般的です。

この仕組み自体は合理的ですが、一つの問題を生み出しています。冒頭の例のように、充電が完了した後も車両を放置するユーザーが現れることです。EVの普及とともに、この「充電後放置」の問題が深刻化しており、充電器の回転率低下や次の利用者の待ち時間増加といった影響が生じています。

充電中の車両ロックが生む複雑さ

充電中に車両から離れる場合、当然ながら車両はロックされます。車両がロックされると、多くの車が基本的に充電プラグもロックされる仕組みになっています(車種によっては例外あり)。

テスラやステランティス系の車両のように変換プラグを使用している場合、変換プラグからは抜くことができる可能性もあります。しかし、充電完了の確認が取れない状態でプラグを抜くことは安全上に大きな問題がありますし、変換プラグ根本から抜けるわけではないため、残った変換プラグで車両に傷がつく可能性があり、トラブルの原因となります。

結局のところ、他の車にプラグがつながっている場合、充電中のユーザー以外が操作をすることが難しいのが現実です。

熊本スーパーチャージャー(SWANOIR)

充電中は車両とプラグがロックされ、第三者による操作は困難です。(Photo by Unsplash)

現実的な充電時間の認識

充電時間については、現在の技術では相当の量を充電する場合、30分から1時間程度は必要というのが現実です。より高速な充電技術の研究も進んでいますが、現在利用可能な選択肢で充電環境を考える必要があります。

テスラスーパーチャージャーの取り組み

テスラのスーパーチャージャーでは、充電完了後に追加課金を行うシステムを導入しています。これは充電器と車両が同じメーカーであり、車両側も詳細な通信を行っている前提で実現されている仕組みです。

この方式は非常に効果的ですが、充電器メーカーと車両メーカーが異なる一般的な充電インフラでは、同様のシステムを軽々に採用することは困難であり、統一された仕組みにもなりづらいのが現状です。

「罰金」か「追加駐車料金」か:機会損失の有無

追加課金システムを考える上で重要なのは、その性質の違いです。「罰金」という考え方は、充電を待っている人が大量にいることを前提としており、機会損失の補填という意味があります。一方、待機者がいない場所では「追加駐車料金」として捉える方が適切かもしれません。

注目すべきは、テスラも約10年前はアラート通知のみで実際の追加課金は行っていませんでした。追加課金システムの導入は、充電を待つ利用者が実際に増加し、機会損失が発生するようになってからの対応です。この段階的な導入は非常に合理的で、機会がない場合には補填という概念も成り立たないという明確な基準を示しています。

この例のように、充電器の利用状況や地域の需要に応じて、追加課金の性質や料金体系を調整することが合理的な運用といえます。

テスラスーパーチャージャー(熊本、SWANOIR)

機会損失の有無によって「罰金」と「追加駐車料金」を使い分けることに合理性があります。(Photo by SWANOIR)

業界全体での模索が続く現状

各充電器運営会社はさまざまな工夫を行っていますが、根本的な打開策が見つかっていないのが現状です。技術的な制約や運用面での課題が複雑に絡み合い、完全な解決には至っていません。

特に難しいのは、利用状況が場所や時間帯によって大きく異なることです。都市部の一部の充電器では常に待機者がいる一方で、地方の充電器では利用者がまばらという状況もあります。

「駐車」という受益の視点

この問題を考える上で重要なのは、そもそも充電というサービスをどう捉えるかという視点です。利用者が受けている受益は、本当に「充電」だけなのかという疑問があります。

実際には通電中は「駐車+受電」、通電後は「駐車のみ」という複合的な受益と考える方が適切です。ガソリンスタンドのように5分程度で燃料チャージが完了するなら駐車という受益は小さいですが、現在のEV充電では相応の駐車時間が必要であり、むしろ「駐車」が主たる受益と考えるべきかもしれません。

充電のみに着目した課金システムでは、この駐車受益が適切に評価されていないため、放置問題が発生しているとも考えられます。

充電中の行動パターンの違い

以上の理由から、現時点では、AC充電器であっても、車両から離れることを前提とした利用が適切と考えられます。

ヨーロッパやアメリカでは、一部の超急速充電器やアウトバーン沿いの充電器を除き、充電中に車内で待機している人を見かけることはほとんどありません。一方で、日本では充電中に車内でスマートフォンを操作しながら待機している光景をよく目にします。

この行動パターンの違いも、充電インフラの利用効率や放置問題の解決アプローチや解決しようとする強度に影響している可能性があります。

充電中の行動パターン

海外では充電中に車から離れるのが一般的。日本とは異なる利用文化。(Photo by SWANOIR)

今後の課題と展望

EV充電器の課金の考え方は、EVインフラが成熟していく過程で避けては通れない課題です。技術的な解決策と運用面での工夫、そして利用者の意識変化が組み合わさることで、より効率的で公平な充電環境が実現されることが期待されます。

充電インフラの利用者として、現在の制約を理解し(悪用せず)、適切な利用マナーを心がけることが、快適なEVライフの実現につながります。

この記事は2022年4月時点の状況に基づいています。業界の動向は日々変化していますので、最新情報は各業者様や事業者様に直接ご確認ください。