EV充電工事の4つの分類
- 電源工事
- 既存の電気設備の容量を増強する工事です。家庭の電気容量を水道のタンクに例えると、タンク自体を大きくするイメージです。一般的な家庭の電気容量は30A〜60A程度ですが、EV充電を追加すると容量が不足する場合があります。この場合、電力会社への申請と工事が必要になり、基本料金も変更されます。
- 引込工事
- 既存の電気系統とは別に、新たな電源ルートを確保する工事です。水道のタンクの例えでいうと、既存のタンクから取らずに別のタンクを新設するようなものです。これにより、家庭内の電気使用とEV充電を完全に分離でき、相互の影響を防ぐことができます。
- 設置工事
- 充電器本体を取り付ける作業です。壁面やカーポートの柱への設置、配線の接続、動作確認などが含まれます。これが一般的に想像される「EV充電器の工事」ですが、実際には全体のごく一部分に過ぎません。
- 意匠対策
- 見た目や使い勝手を考慮した追加工事です。壁面に設置しない場合のコンクリート基礎によるポール設置、配管の色調整、地面下への埋設など、機能性と美観を両立させるための対策が含まれます。

電源工事・引込工事・設置工事・意匠対策、それぞれが重要な役割を持つ(Photo by Ashin K Suresh on Unsplash)
「ワンルーム分の電力」という現実
EV充電器が必要とする電力は、一般的な家電製品とは大きく異なります。6kWの充電器の場合、これはワンルーム程度の電力を継続的に使用することになります。また、エアコンや電子レンジのように短時間の使用ではなく、数時間から一晩中、安定的にそれなりの電力を供給し続ける必要があります。
この電力需要に対応するには、家庭の電気容量に十分な余裕が必要です。既存の電気使用量と合わせて容量を大きく超える場合、電源工事や引込工事が必要になります。「うちは大丈夫」と思っていても、実際に計算すると容量不足が判明することは珍しくありません。
家への影響を最小限にする配慮
EV充電器の設置で最も慎重に検討すべき点の一つが、配線ルートです。分電盤は通常、家の内部にあるため、そこから駐車場まで配線を引く必要があります。つまり、外壁や基礎に穴を開ける必要が生じることがほとんどです。また、充電器の設置場所と分電盤が対角線上にある場合、玄関前を通る場合など、配線ルートが長くなるケースでは、工事費用の大部分がこの配線ルートの工事費用です。
現代の住宅は高気密・高断熱化が進んでおり、昔のような通気口もありません。床下暖房や24時間換気システム、湿度管理システムなど、住環境を快適に保つ設備が組み込まれています。これらのシステムは、家全体の気密性を前提に設計されているため、安易に穴を開けることは避けるべきです。
また、基礎部分は建物の耐震性能に直結する重要な構造体です。適切な位置と方法で施工しないと、耐震性能の低下や、万が一の際の保険金の計算に不利になる可能性があります。

高気密・高断熱住宅では配線ルートの選定が特に重要になる(Photo by Lisa Anna on Unsplash)
コスト優先で家を傷めないために
「とにかく安く」という要望で工事をし、不適切な工事によって生じる問題の修復費用は、適切な工事費用を大きく上回ります。基礎や外壁の不適切な穴あけによる雨漏り、気密性低下による冷暖房効率の悪化、耐震性能への影響など、後から発覚する問題は深刻です。
適切な工事業者は、これらのリスクを十分に理解し、住宅への影響を最小限に抑える施工方法を提案します。現地調査を省略して低価格のみを訴求する業者ではなく、建物の構造を考慮した提案ができる業者を選ぶことが、長期的な住宅の価値と安全性を守ることにつながります。