EV充電の基本原理:直流(DC)充電が基本
EVのバッテリーは直流(DC)で充電されます。これは現時点では変わることがない基本原理です。私たちの身の回りにある電気には交流(AC)と直流(DC)の2種類があり、家庭のコンセントから供給されるのは交流です。
この交流を直流に変換する作業が「交直変換」と呼ばれるもので、スマートフォンやパソコンの充電器(ACアダプタ)と同じ仕組みです。ACアダプタが交流を直流に変換してスマートフォンのバッテリーに供給しているのと、EVの充電も基本的には同じ原理で動作しています。
加えて、EV充電では電力供給と同時に車両と充電器間での通信も行われています。

ACアダプタと同様の交直変換がEV充電でも重要な役割を果たしている。(Photo By SWANOIR)
AC充電:車体内変換による交直変換
低出力でよく利用されている交流充電(AC充電)では、車体内に搭載された機器が交直変換を行います。この方式では、複数の制限要因が充電速度を決定します。
まず、車体自体の性能による上限があります。上位車種では10kW、下位車種では3kW程度と、車両グレードによって大きく異なります。また、ユーザーによる出力調整が可能な車種もあり、その場合はユーザー設定が優先されて出力が制御されます。
以上の制限に、充電器本体の出力上限が加わって受電量が決定します。例えば、充電器の性能が10kW、車種の上限が6kW、ユーザー制御で4kWに制限されている場合、実際の充電は最も低い4kWで行われます。この「最も制限の厳しい条件に合わせる」という仕組みは、DC・AC充電共通の特徴です。
DC充電:高出力だが条件に左右される
直流充電(DC充電)では、充電器側で交直変換を行い、直流をそのままバッテリーに供給します。このため、理論上はより高いkW数での充電が可能になります。
ただし、DC充電の出力は気温、バッテリー温度、バッテリー残量など、非常に多くの条件で制御されます。「最大150kW」と表記されている充電器でも、150kWは最高の条件が揃った時の数値です。実際の充電では、車体や充電器のシステムが安全性を優先して出力を調整するため、表記値より大幅に低い出力になることが一般的です。
例えば、250kW対応の充電器でも、バッテリー残量や気温などの条件により25kW程度まで制限される場合があります。これは故障ではなく、バッテリーの安全性を確保するための正常な動作です。

DC充電では環境条件によって実際の充電出力が大きく変動する。(Photo By SWANOIR)
変換プラグ使用時の制約
異なる充電規格間で変換プラグを使用する場合、追加の制限が発生します。例えば、CHAdeMO規格からテスラ規格(NACS)への変換プラグを使用する場合、変換プラグ自体の性能制限が重要な要因となります。
具体例として、充電器の出力性能が200kW、そのタイミングでの車両の最大受電量が55kW、変換プラグの上限が44kWという条件を考えてみます。この場合、充電器に200kWの性能があっても、最終的な充電速度は最も制限の厳しい変換プラグの44kWに制約されます。
変換プラグの仕様は見落としがちですが、充電速度に大きく影響する重要な要素です。