表面的な議論:時間課金 vs 従量課金
現在のEV充電サービスでは「時間課金(○円/分)」と「従量課金(○円/kWh)」の2つの方式が採用されています。多くの利用者にとって馴染みがあるのは従量課金です。ガソリンスタンドでの給油が「1リットルあたり○円」で計算されることや、家庭の電気料金が「1kWhあたり○円」で計算されることと同じ仕組みだからです。このため、「EV充電も従量課金にするのが当然」という意見があります。
しかし、ガソリンとEV充電を同列に比較することには問題があります。ガソリンや水道水の供給では、「スピード」という概念がほとんど存在しません。ガソリンスタンドでは、どのポンプを使っても給油速度に大きな差はなく、給油時間は主に給油量によって決まります。
一方で、電気は時間という概念が重要であり、他の水道などでは概念として起こりづらいものです。この点を無視して課金体系を単純化しすぎると、かえって分かりづらい面もあります。

ガソリン給油では速度差がほとんどないが、EV充電では出力により大幅な時間差が生じる。(Photo By Kevin Solbrig on Unsplash)
本当の課題:DC充電とAC充電の根本的違い
一口にEV充電と言っても、充電方式の違いで性質が大きく二分されます。DC充電(急速充電)では充電器側で大容量の交流を直流に変換するため、キュービクルなどの大規模な受電設備が必要となり、施工費を含めて数千万円の設備投資が発生します。この結果として高い単価設定が避けられません。
一方、AC充電(普通充電)では車両内部で交流を直流に変換するため、既存の電力インフラを活用でき、比較的少ない設備投資で済みます。特に3kW以下の出力で1時間程度であれば、無料で開放していることが多いのはこれが理由です。

DC充電は大規模な設備投資が必要だが、AC充電は既存インフラを活用できる。(Photo By SWANOIR)
DC充電の課金を難しくする2つの要因
DC充電の課金では、2つの大きな課題が発生します。まず、大規模な設備投資により同じ1kWでも単価が異なります。従量課金を採用しても、この構造的な高コストは解決されません。
さらに、DC充電では出力が常に変動するため、時間課金の場合に利用者の混乱が生じやすくなります。同じ時間・同じ料金でも、バッテリー状態や気温により充電量が大きく変わるためです。この複雑さは従量課金では発生しない時間課金特有の問題です。
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EVの充電の仕組みと充電速度具体的な料金比較:100kWバッテリーを50%から満充電する場合
DC充電とAC充電の違いを具体例で比較してみます。100kWのバッテリーを50%から100%まで充電(50kWh)する場合を考えてみます。
DC充電で従量課金80円/kWhを採用するA社では、50kWh ✕ 80円/kWhで4,000円となります。同じくDC充電で出力別時間課金を採用するB社では、充電の進行とともに出力が変動し(120kW→80kW→60kW→40kW、合計53分)、計算結果は4,050円となります。一方、AC充電で300円/時を採用するC社では約8時間20分で2,500円となります。
この例では、DC充電がAC充電の約1.6倍の料金となり、課金方式の違い(A社 vs B社)はわずか50円の差に過ぎません。重要なのは課金方式ではなく、充電方式そのものの違いであることが分かります。

DC充電とAC充電の料金差は課金方式の違いより大きく、設備投資の差が反映されている。(Photo By Matt Bloom on Unsplash)
AC充電では課金方式の違いは問題にならない
AC充電の場合、出力が安定しており、時間課金と従量課金のどちらを採用しても大きな問題は発生しません。取りまとめる単位が違うだけで、時間あたりの金額と電力量(kW)あたりの金額は実質的に同じ意味を持ちます。
つまり、「時間課金 vs 従量課金」の議論が意味を持つのは、主にDC充電の領域だけなのです。
議論の本質:充電方式の特性理解が重要
EV充電の課金方式を考える際に重要な点は、「どちらの課金方式が優れているか」ではなく、「DC充電とAC充電の特性の違い」です。
DC充電は高速で便利な反面、設備投資の大きさから高コスト構造が避けられず、また、時間による変動があるため、金額の計算は複雑化します。一方でAC充電は低コストで安定した充電が可能です。
利用者にとって重要なのは、これらの特性を理解した上で、自分の利用パターンに最も適した充電方法を選択することです。課金方式の表面的な比較よりも、充電インフラ全体の構造を理解することが、快適な充電の実現につながります。現時点では複雑に感じる面もありますが、同じ車両でディーゼル、ハイオク、レギュラーを使い分けることができるようなイメージです。