WHAT
アクセラレータープログラムは、しばしば「参加者の満足」が目的化し、事業創出という本来のゴールが薄まってしまうケースが見受けられます。ピッチ練習や資料作り講習が中心になり、数年経って「で、何が残ったのか」となるケースも珍しくありません。佐賀県は、コスメ製造企業が集積する地域です。ただ、製品への製造地表記が義務ではないため、この強みは広く知られていません。県は「日本一コスメビジネスがしやすいまち」を掲げ、コスメ特化型のアクセラレータープログラムを5年計画で立ち上げました。5年計画の3年目から参画し、4年目・5年目は単独で受託しました。プログラムの内容も一部見直しながら、設計から実行支援まで運営全体を担当しています。
HOW
メンタリングと伴走支援
メンタリングの目的は、知識の提供ではなく、行動の促進です。「伴走支援」という言葉がよく使われますが、役割としてはペースメーカーであり、並走や沿道応援ではありません。場合によっては少し早いペースを求めることも必要です。新規事業は、ビジョン(やりたいこと)、顧客ニーズ(すべきこと)、業績や体力(できること)の3つが重なる狭い部分を見つける作業です。この棚卸しを徹底的に行いました。ディスカッションではDevils Advocateを導入し、あえて反対意見を述べることで思考を深める場面もありました。「答えは?」「正解は?」という思考から、「今すべきことは何か」に注目する議論を促しています。メンタリングの頻度を上げ、営業同行や海外出張中のリサーチ支援など、可能な限り現場に入った実行支援を行いました。
販売体験の設計
新規事業開発には特有の落とし穴があります。検討段階ではOEMなどのパートナー企業と話すことが多く、フィードバックは甘くなりがちです。しかし、実証実験や上市の段階になると、ユーザーやバイヤーなど実際にお金を払う側と向き合うことになり、厳しいダメ出しが飛んでくる。このギャップに耐えられず頓挫するケースは非常に多く見受けられます。そこで、早い段階から「厳しい顧客の声」に触れる機会を意図的に設計しました。福岡の百貨店の専門店フロアでポップアップストアを開催し、参加者は手数料の高さ、商談の難しさ、製品チェックの厳しさ、そしてバイヤーやユーザーからの生の声を体験しました。厳しい実績を目の当たりにすることもあります。この販売体験を通じて、そのまま店舗への導入が決まるなど、具体的な成果も生まれています。
応募者の獲得
応募者が不足するとプログラム全体に影響します。「地方創生」「産業創出」の本来の目的から、仕様書にない施策も積極的に実行しました。映画館でのノベルティ付き広告イベントや全国規模のWeb広告を展開し、4年目のプログラムを2年越しで見ていた東京のスタートアップが「来たいと思っていた」と参加してくれるケースも生まれました。
講師陣のコーディネート
業界の第一線で活躍する実務家——バイヤー、ブランドマネージャー、研究開発者、デザイナーを講師に迎え、現場の経験に基づいた知見を共有しました。講師との縁が現在も続いている参加者もいます。
地元リソースの活用
佐賀県の強みであるコスメ産業クラスターを活用し、地元OEM、佐賀大学、工業技術センター、空港など地域のリソースと連携しました。


WHY
パートナー企業との関係も意識しました。たとえば製造OEMに対しては「発注する権利」ではなく「発注する義務」という考え方を重視しています。OEMは協力してくれた存在であり、感謝と対等な関係を築くことが、結果的により良い協力を引き出します。事業開発の現場では、座組み、革新性、競合、パートナー、ブランドといった話に集中するうちに、気がついたら「この製品を誰が、なぜ買うのか」が後回しになっていることがあります。アクセラレーターの運営にも同じことが言えます。プログラムの成否を判断するのは、直接の発注者ではなく、その先にいる県民や産業そのものです。「数年後、本来の顧客からやってよかったと言われるだろうか」「プログラムに投じるリソースを他のことに使った方がよかったと言われないか」——この自省を常に判断基準に置きました。今回はコスメという特定領域でしたが、本質的に問われたのはアクセラレーター運営そのものの力です。県民の方々が数年後に「やってて良かった、良いところに頼んでいる」と感じられるプログラムを目指して運営してきました。
