SWANOIR

2022.2.4

Written By MOM

EV充電器の規格を整理する

お客様や講演でよく受ける質問のひとつが「充電器の規格はどうなっているのか」、「これからどうなっていくのか」というものです。インターネット上には様々な情報が溢れていますが、実は混乱を招く内容も多く、特に日本の状況は複雑です。充電器の規格について、世界の状況と比較して整理します。

様々なEV充電コネクタ

日本から逆算しても全体像は見えない

日本の充電器規格の状況は、率直に言うと「分かりづらい」状況です。複数の規格が混在しており、日本国内の状況だけを見ていても、世界全体の規格動向を理解することは困難です。世界の状況から日本を見た方が整理して理解しやすくなります。

世界の充電規格は大きく5種類

世界のEV充電規格は、大きく分けて以下の4分類で5種類に分類されます。
CCSコンボ:Combined Charging System
Type1とType2の2種類
CHAdeMOチャデモ
日本発の規格
GB/T日本未導入
中国の統一規格
NACSNorth American Charging Standard
テスラが開発した規格
これらの規格には、それぞれ異なる特徴と普及地域があります。
世界の充電規格分布図

世界各地域で採用されている主要な充電規格の分布(Illust by SWANOIR)

CCS-Type1(J1772&CCS1):北米の主力規格

CCS-Type1は正式名称がJ1772で、AC充電(いわゆる普通充電)に使用されます。DC充電版(いわゆる急速充電)は単にCCS1と呼ばれます。

この規格の特徴は、一つの充電口でACとDCの両方に対応していることです。充電口の上半分だけを使うとAC充電、全体を使うとDC充電という仕組みになっています。主に北米で採用されており、理解しやすい構造が特徴です。

CCS-Type2(Mennekes&CCS2):ヨーロッパの標準規格

CCS-Type2のAC充電の正式名称はMennekesで、DC充電版がCCS2です。差し込み方の仕組みはType1と同じで、充電口の一部を使うかすべてを使うかでAC/DCが決まります。主にヨーロッパで採用されており、ヨーロッパ域内では原則としてCCS2で統一されています。

GB/T:中国の統一規格

中国で採用されている国家規格で、ACとDCの両方のタイプが存在します。中国国内では原則としてGB/Tで統一されており、他国メーカーも中国市場向けには車両の充電ポートを作り変えて対応しています。

NACS:テスラ独自規格

NASCはACとDCが同じコネクタ形状という特徴があります。従来はテスラ専用の規格でしたが、近年、北米市場においては、他メーカーでも採用が広がっていると言われます。

日本の複雑な状況とCHAdeMOの可能性

日本のEV充電規格は以下のような5種類のプラグを使い分けている状況です。
AC充電2種類
J1772(CCS-Type1の上半分)とテスラ専用のNACS
DC充電3種類
CHAdeMOが主流、一部車種でCCS1(CHAdeMOからの変換プラグで対応)、テスラはNACS
CHAdeMOという規格を分かりづらくしているのは、DCのみという立ち位置だからです。ACは他の規格を流用しているため、すぐに分かりづらい状況となっています。CHAdeMOは一部では「ガラパゴス」扱いされることもありますが、技術的な評価は高く、もしCHAdeMO-ACのような統合規格が開発され、ヒットする車種に採用される等があれば、世界市場でも十分戦える可能性があると思われます。
世界の充電規格の統一状況

主要4地域における充電規格の利用状況(Illust by SWANOIR)

各地域の統一状況

世界各地域の充電規格統一状況を見ると、最近では以下のようになっています(統一前の車両を除く)。

欧州:【CCS2】で統一

中国:【GB/T】で統一

北米: 【CCS1】と【NACS】が併存

例えば、テスラも地域に応じて充電ポートを作り変えています。中国向けはGB/T、ヨーロッパ向けはCCS2という具合です。

よく話題になる「NACS共有」は主に北米での動きです。日本の自動車メーカーにとって北米市場が重要なため、このニュースが「世界統一」のように報道されることがありますが、実際は北米エリアでの検討事項です。

なぜ海外ブランド車の日本導入が限定的なのか

日本の充電規格の複雑さは、海外自動車メーカーの日本参入にも影響しています。BMW、MERCEDEZ、TESLA、HYUNDAI、AUDI/PORCHEなど、多くの海外ブランドが日本で販売している車種は、本国ラインナップの半分程度に留まっています。

これは、日本市場向けに充電ポートを作り変える必要があるためです。市場規模と開発コストを考慮すると、すべての車種を日本仕様にすることが困難な場合が多いようです。

今後の動向は予測困難

充電器の規格はあくまでも車両の付属設備です。そのため、大ヒット商品が全く異なる充電ポート形状を採用すれば、一気に勢力図が変わる可能性もあります。一方で、iPhoneの充電ポート統一のように、効率性や環境負荷の観点から規格統一が求められる可能性もあります。ただし、すでに相当数の充電器が世界各地に設置されているため、急激な変化は現実的ではありません。

これらの状況を踏まえると、技術的な優位性だけでなく、政治的・経済的要因も規格の普及に大きく影響するため、充電器の規格に関して特定の規格に「一点賭け」することはリスクが高いと思われます。

ご自宅への設置という観点では、比較的汎用性の高いJ1772タイプかつ、メーカーに依存しない充電器の方が長期的な観点でリスクが低いと思われます。

充電器の統一が難しいイメージ(パリモーターショー充電画像)

充電プラグの形状の将来は見通しが難しいため、汎用性が高いものがリスクが低い(Photo by SWANOIR)

まとめ

EV充電器の規格は、地域ごとに異なる発展を遂げており、完全な統一にはまだ時間がかかりそうです。日本の状況は特に複雑ですが、これは技術的な問題というより、市場形成の過程での選択の結果です。

今後の動向を予測することは困難ですが、現在の複数規格併存状況がしばらく続く可能性が高いと考えられます。EV選択の際は、充電規格の将来性よりも、現在利用可能な充電インフラとの適合性を重視することが現実的な判断と言えます。

この記事は2022年2月時点の状況に基づいています。EV充電規格の動向は変化が激しいため、最新情報は各業者様や事業者様に直接ご確認ください。