2-3時間滞在施設に30分制限タイプの急速充電器の矛盾
最近では多くのショッピングセンターや商業施設に、100kW以上のDC充電器が設置されています。確かに、EVユーザーのみ、つまり、EVがほぼすべての車に置き換わる、という前提を置けば「最新設備で素晴らしいこと」だと思いますし、設備自体も技術的にすばらしいものだと思います。しかし、現実的に、走行台数含めて様々な制約の中で運用していくには、少なくない問題をはらんでいると考えられます。
例えば、一般的な集合商業施設の場合、平均滞在時間は2-3時間程度です。映画を見たり、食事をしたり、買い物を楽しんだりする時間です。一方、急速型の充電器では多くの場合、30分程度で通電が停止してしまいます。その結果、利用者は充電完了後も車両を放置するか、車内で待機して施設を利用しないかの選択を迫られます(現実的に戻ってきて車を移動する方は決して多くはない、というのが実情です)。
充電完了後の車両放置は、次の利用者の機会を奪い、充電器の稼働率を下げます。これは昨今、よく言われる話ですが、あくまでもEVユーザー同士だけの話です。
むしろ、施設や駐車場全体を考えた場合、EVユーザーとしてはマナーが良い、車内待機を選択される方がある意味では問題だと考えられます。施設の本来の目的である、顧客体験や売上機会を逸失させるからです。施設側は集客のために充電器を設置したはずが、かえって客単価を下げる結果となりかねません。

商業施設の滞在時間と充電時間のミスマッチが様々な問題を引き起こしている。(Photo by SWANOIR)
逆のミスマッチ:滞在時間に対して遅すぎる充電器
逆に、観光施設などで、3kWの充電器だけが複数設置されているケースも見受けられます。2時間の滞在で充電できるのはわずか6kWh程度。70kW~100kWのバッテリーを搭載した車両にとっては、ほとんど意味のない充電量です。
しかし、実は利用者からは「充電器があるというから来たのに、使い物にならない」という不満の声はそれほど上がりません。これらの充電器は「存在しないもの」として扱われ、単に利用しない、という選択肢を取るからです。充電器があるのに充電車室が利用されない場合、設置費用が完全に無駄になっています。
施設側も「環境配慮」や「先進性」といった副次的な目的もあって設置したとは思われますが、実用性がないため全く利用されず、メンテナンス費用だけがかかる完全な負の資産となっているのは悲しいことです。使い方次第では、それほど速い充電器でなくとも、活用方法はあるのが現実です。
施設運営者の努力と充電器設計の乖離
商業施設や観光地の運営者は、来訪者により長く、より楽しく滞在してもらうために様々な工夫をしています。レストランを充実させ、体験型のイベントを企画し、地域の特産品を揃え、「せっかく来たのだから、ゆっくり楽しんでほしい」と努力しています。
しかし、数十分で充電が完了することを謳う急速充電器は、これらの努力と完全に逆行しています。どれほどの超急速であったとしても、ガソリン給油の数分ではないというところがポイントで、車内待機するには長く、降りるには短いというところが問題です。車内待機を選択してしまう方は、地域の魅力を知る前に、食事を楽しむ前に、買い物をする前に去ってしまう可能性が高いのが実情です。一方で、当然、充電修了後の放置は放置で間違いなく解決すべき問題です。
充電時間を「機会」に変える発想転換
EV充電がガソリンスタンドレベルで、3分で完了するならこの議論は不要です。しかし、現在の技術では、当面は30分から1時間程度の充電時間は避けられないのが現実です。であれば、その時間をどう使うかを考えるべきではないでしょうか。
30分間、同乗者と狭い車内で話をするだけでも楽しいような関係であれば、その同じメンバーと1時間かけて地域を散策したり、知らなかったお店を発見したりする方が、より価値のある時間になるのではないかと思います。そして、そうであるように、そうなるように、あらゆる駐車場の周辺は日々努力なさっています。
充電時間を「やむを得ない待機時間」ではなく「新しい体験の機会」として捉え直すこと(捉え直さざるをえない)ことで、充電器の設計も変わってきます。2-3時間の滞在施設なら25-50kWの充電器で十分です。滞在時間全体を使って充電すれば、次の目的地まで十分な電力を確保できます。

充電時間を地域発見の機会として活用することで、より豊かな体験が生まれる。(Photo by SWANOIR)