SWANOIR

2023.1.25

Written By MOM

充電器は本当に速ければ良いのか?ガソリンスタンドとの異同

EV充電器の議論では「より速く」が最優先事項のように語られます。150kW、250kW、350kWと、充電器の高出力化競争が続く一方で、「25kWなんて遅すぎて使い物にならない」というおっしゃる方もいらっしゃいます。しかし、実際のEV利用を考えると、それぞれの出力には適した利用シーンがあり、画一的な「速さ」の追求は、かえって利便性を損なう可能性があります。

The Luigansの充電器

150kW超急速充電の現実:期待と実態のギャップ

150kWや250kWといった超急速充電器は、確かに技術的には素晴らしい進歩です。しかし、実際の利用では期待とは異なる現実があります。

これらの充電器は、バッテリー残量が少ない初期段階では確かに高出力で充電しますが、バッテリー保護のため、充電が進むにつれて段階的に出力が低下します。結果として、表記の最大出力で充電できるのは限られた時間だけで、実際の平均出力は大幅に低くなります。

さらに、これらの設備には莫大な初期投資が必要です。また、電気料金の月額も原則的にはkWに応じた金額となるため、直接的な電気代も高くなります。これらのコストは最終的に利用料金に転嫁され、利用者の負担も増大します。そのため、高速充電のメリットと、そのコストのバランスを冷静に評価する必要があると考えます。

25kW充電器への誤解:「遅い」は本当に「使えない」のか

最新の100kW以上の充電器と比較すると、従来型の25kW~50kWあたりのDC充電器は「遅すぎる」と批判されることがあります。しかし、実はこれは初期型リーフ時代の名残を受け継ぐ「運用方法」の問題であって、充電器自体の問題ではないのかもしれません。

初期型リーフのバッテリー容量(25kWh程度)を前提に「最大で30kW出力程度あれば、30分〜1時間で十分」「ゆえに、30分〜1時間で充電して次の人に交代」という運用が定着しました。しかし、現在の60kWh〜100kWh容量のバッテリーを搭載したEVでは、この運用では「おかわり」が必要になり、待っている人がいるのに再度接続したり、車に定期的に戻ったりしなければならず、不便を強いられるシーンがあります。

問題は25kWという出力ではなく、1時間で回転させようとする運用方法です。例えば、ショッピングセンターや映画館のような2〜3時間滞在する施設であれば、25〜30kWの充電器でも数時間の稼働を行えば十分な充電量を確保できます。

この問題の解決策として、充電器とは異なる課金システムを導入し、充電時間設定を施設の特性に合わせて変更することで、既存の25kW充電器を有効活用する、という方法があります。この方法では、新たに高額な充電器に入れ替えるのではなく、運用方法の最適化により、設備投資を抑えながら利用者の満足度を向上させることが可能です。滞在時間全体を充電に活用すれば、50〜75kW容量のバッテリーでも実用的な充電が可能になり、「おかわり」の煩わしさから解放されます。

初期型の環境車のイメージ(パリモーターショー)

旧型と言われがちな25kW充電器も運用次第で十分実用的。施設の滞在時間に合わせた設定が重要。(Photo by SWANOIR)

出力別の適材適所:すべての充電器に価値がある

実際のEV利用を考えると、それぞれの出力帯には明確な役割があります。
3kWAC充電(コンセント)
PHVや災害時の緊急対応に最適です。現代のEVには若干出力が低すぎ、また、コンセントで代行できるため、わざわざ充電器を設置するメリットは低い出力です。
6〜10kW(充電器)AC充電
自宅や宿泊施設、長時間勤務の職場に最適です。8時間の滞在で48〜80kWの充電が可能で、翌朝には基本的に満充電で出発できます。設備投資も抑えることができ、電気料金も一般的な料金体系です。
25〜50kW(充電器)中速充電
食事や買い物、映画鑑賞など1〜3時間の滞在施設に適しています。この出力帯なら、滞在時間内に25〜100kWの充電が可能ですので、十分な出力と考えられます。
90kW以上(充電器)急速充電
高速道路のサービスエリアや、本当に短時間での充電が必要な場所に計画的に設置が求められるタイプです。逆に、高額な投資に見合う価値を提供できる場所は限られていると考えられます。
どの出力帯も「遅い」「速い」という単純な評価ではなく、利用シーンとの適合性で評価されるべきではないかと考えられます。

ガソリンスタンド発想からの脱却:新しい充電文化の確立

「充電の時間は短ければ短いほど正しい」という考えの根本にあるのは、「充電=給油」という前提です。ガソリンスタンドでは、給油のためだけに立ち寄り、5分程度で作業を完了させます。ゆえに、車両から離れることは想定されない行為です。この体験を基準にすると、確かに「速ければ速いほど良い」という結論になります。

しかし、EVの充電は本質的に異なります。充電時間をガソリンスタンドのように考えてしまうと、「やむを得ない待機時間」が発生します。しかし、車に限らず、充電とは多くの場合、他の活動と並行して行う「ながら充電」が基本です。買い物をしながら、食事をしながら、仕事をしながら充電するのが、EVの自然な利用形態です。

この視点に立てば、充電器の評価基準も変わってきます。重要なのは「いかに速く充電できるか」ではなく、「施設の滞在時間といかにマッチしているか」です。2時間滞在の施設に20分で満充電になる超急速充電器を設置すれば、充電完了後の車両放置や、車内待機による施設利用の減少といった問題が発生します。

施設の地下駐車場(ソウル・ジェネシス)

充電時間を有効活用した「ながら充電」がEVの自然な利用形態。(Photo by SWANOIR)

速さだけでない、本当の利便性を追求する充電インフラへ

充電器の「速さ」は、場所によって追求すべきで、一律に求められることではないと考えられます。6kWから100kWオーバーまで、それぞれの出力には適した利用シーンがあり、場所の特性に合わせた充電器選定が重要です。

ガソリンスタンドの給油体験に囚われることなく、EV充電の本質である「ながら充電」を前提とした、新しい充電インフラの設計が求められています。利用者にとって本当に価値のある充電環境は、最速の充電器ではなく、その場所での滞在と調和する充電器です。

この記事は2023年1月時点の充電技術と利用実態に基づいています。バッテリー技術や充電器の性能は日々進化していますので、最新情報は各メーカーや事業者にご確認ください。